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一章 第十一話「颶風のミルドレッド」

作者: 鈴谷凌
last update publish date: 2026-06-03 16:00:20

 迫りくる三体の魔人を間一髪のところで退けたエルキュールたちを狙ってきた、豪奢な薄緑のドレスに身を包んだ長身の女性。

 その口から発せられた恐ろしい肩書に、エルキュールは内心焦りを感じていた。

 アマルティア幹部。つまりはザラームと肩を並べるほどの力を持った魔人。ここ一帯で起こった異常事態を説明づけるにはこの上ないほどの分かりやすい人物ではあるが、そんな論理的な整合性に喜ぶほど余裕のある状況ではない。

 魔獣の群れに、騎士が汚染されて生まれた魔人。戦闘の連続によってただでさえ消耗しているというのに、その上アマルティア幹部とも対峙することになろうとは。

 強力な魔術師であるジェナは不意を突かれて倒れてしまった。この場に帰ってきていない以上、やはり気絶している可能性が高い。

 何としてでも、エルキュールは一人でこの場を切り抜けなければならなかった。

「アマルティア、か……まさかこんな所で遭遇するとは。先日の演説の通り、表立っての行動に移ったということか」

 相対するミルドレッドは不意に攻撃した時とは打って変わって、今のところ動く素振りが見られない。ならば、こちらから下手に行動する必要はな
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  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第十三話「共通項」

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     振り返ったところに、人影。 驚愕を仕舞いこんで、落ち着いて観察する。 背はエルキュールよりもやや高いほど。こげ茶の軽装の上からもはっきりと分かる筋肉は、鍛え抜かれた逞しさを遺憾なく主張している。 視線を上へ。燃えるような赤髪は無造作な伸びていて、火花が散っているかのように見えた。 日に焼けた肌も、彫りの深い顔も、オルレーヌでは珍しい。親しみやすさを感じる笑みを顔に貼り付けてはいるが、総合的に判断すると、途轍もなく怪しいものだった。 なおも注意深く視線を向けるエルキュールに、青年は肩をすくめた。「そんなに見つめるなよ。……もしかして惚れたか?」「失礼。そういった趣味は持っていな

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  • 黒き魔人のサルバシオン   序章 第一話「何ものにも代えがたい日常」

    「……あれから八年か……」 幾度となく繰り返し読んだ単行本を両手に持つエルキュールの眼が滑る。 なにも質素な自室の窓から朝の到来を告げる、小鳥のさえずりのせいだけではないだろう。 それは追憶だった。 エルキュールにとっての原初の記憶、忌み嫌うべき記憶のせいだった。 本を両手でぱたりと閉じると、エルキュールはやや上を見上げてゆっくりと目を閉じた。 中断させられた読書を再開する気もなく、ただそうして、エルキュールはいつものように心を落ち着けた。「――というか、そろそろ出る時間だったな」 ゆっくりと目を開けて思い出す。 窓から見上げれば小鳥の便りにするこもなく、遠くの空が白んでい

  • 黒き魔人のサルバシオン   プロローグ「萌芽」

     名もなき丘の上。 平時なら静寂に包まれているはずの彼の地は、その夜、溢れかえるほどの人々で埋めつくされていた。 たとえばそれは、泣き叫ぶ幼子。 あるいは、子を宥める親。 身を震わせ叫ぶ者たちもいた。 反応はそれぞれ異なるが、確かなのは、誰も彼もが一様に悲嘆に明け暮れ、丘の麓で盛る劫火に、果てしのない喪失を重ねていたこと。 この者どもが住んでいた村は、僅か一晩の内に救いようもなく決定的に破壊された。 彼らにとっては最も忌み嫌うべき宿敵によって。「――――」 そんな凄惨たる状況の中で一人。 人々から少し離れたところで佇む青年だけが悲哀と無縁であった。 飾らない灰色の髪に、

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